中医火神派医案新選 その35
中医火神派医案新選
その35 五、盧鋳之医案 盧鋳之(1876-1963)は名伯楽で、晩年は金寿老人と号された四川省の徳陽の人、鄭欽安の弟子として入室した。中医世家の生まれで、少年時代は義理の叔父顔竜臣に随って学問を学び医学を習った、“たちまち十年、学問は徐々に進みまた師の命を受けて蓉に赴き鄭欽安師からは用法や用方の奥儀を学び、三年にわたり親しく薫陶を受け聞いたことは必ず記録し、急に鄭師が他へ出かけた時は故郷へ帰るように命じられ、そこで百本の筆記を携えて顔師に言われるように移動した”(盧氏臨床実験録・自序)。光緒の終りの年に成都で開設した“養正医館”は正式に医を行った。鄭欽安の扶陽理念を継承発揚し、臨床経験は豊富で善く辛温重剤を用い、そして独自に一派を打ち立てて“盧火神”の誉れがある。建国後、かつて中共四川省委党校医院の招聘を受け、主任医師を任ぜられた。著書に《鄭欽安先生医書集注》・《金匱要略恒解》・《盧氏医学心法》・《盧氏臨床実験録》等があったが、惜しくも多くは散失した。盧氏の子の盧永定・孫の盧崇漢は皆その奥義を伝承し、姜附の扶陽を多く用いて、共に“盧火神”の名を高めた。 1.悪性子宮瘤――附子理中湯加味 向某、女、27歳、成都市在住。1953年5月12日いつまでも月経が止まらず腹部脹痛して、食事と睡眠がとれなくなったので、四川医学院付属医院で治療を受けに行き、検査の結果悪性の子宮瘤であると云われた。ラジウム電波放射治療を用いたため、二便がこれに因って閉塞し通じなくなり、また洗腸法を用いてもなお二便は通じず、入院数カ月病勢は日に日に重くなり、遂には家へ帰っての養生となった。人の紹介で盧氏の治療を受ける。 調べると顔色は艶が無く焦悴しきった様子で、事情を細かく問うと出産時に悪露が出尽くしておらずしかも房事を慎まなかったため、精と瘀が混ざって包まれ何時も隠痛がしてもう数年になる。脈を診ると両尺は堅沈で両関は緊急、両寸は浮空で顔色と事情とを照らし合わせると陽虚陰盛であり、冲任の気機が阻害されている。 以上の根拠から診断は、先ず陰陽の道路を貫通させ脈道を通調させる、そのあと用陽化陰の法で陰凝を解けやすくさせれば、陽気は容易に巡る。 第一回処方:制升麻12g、老蔲(帯殻)15g、西砂殻9g、茅朮9g、広紫苑15g、炙甘草6g、灶心土1塊。服用後ゲップが出て、小便は以前に比べて通利し、大便も一回出て食欲は少し増えた。 第二回処方:制附子45g、朱茯神15g、老蔲(帯殻)15g、西砂殻12g、制升麻15g、炙甘草6g、葱白5茎。服用後飲食睡眠のどちらも前と比べて好くなり、二便は既に詰まった感じがなくなり、腹部の脹痛もやや減った。 第三回処方:制附子60g、白朮12g、制升麻15g、杜仲18g、砂仁12g、朱茯神15g、党参15g、炙甘草6g、生姜30g。服用後腹の脹痛は更に減り食事睡眠とも改善した。 第四回処方:制附子60g、白朮15g、肉桂9g、砂仁12g、筠姜18g、南藿香15g、党参18g、炙甘草6g、生姜30g。服用後瘀濁血塊を極めて多く下し、腹痛は大幅に減って歩くことができるようになった。 第五回処方:制附子90g、砂仁18g、葫盧巴18g、杜仲30g、補骨脂18g、麒麟竭9g(冲服)、党参24g、制升麻15g、朱茯神15g、炙甘草9g、煨乾姜60g。 服用後腹の脹痛はなくなって二便は正常となり、精神は伸びやかで心が愉快になって、その他の症状も全て消失した。 評注:弁証は“陽虚陰盛”で当然扶陽するべきであるが、しかし“まず先に陰陽道路を貫通、脈道を通調させる”ことが必要で、第一回目の処方は砂蔲・升麻・茅朮の理気升降を以って選用し、重要なことは“陰陽の道路の貫通”で、これは盧氏の一つの重要な考え方である――扶陽の前に先ず郁滞を開通させ、“然るのち用陽化陰の法で陰凝を解けやすくさせれば陽気は容易に巡る”。 第一の処方を除いた外、その余った処方はこんがらかっているようだが附子理中湯が中心であり、加えて杜仲・胡芦巴・補骨脂等の補腎の品を入れ、同時に多量の生姜・筠姜・煨乾姜等の異なった制法の諸姜を方に入れ用いている。 この老師の用いる附子は45gから60g・90gと段々と増量し、別にいきなり大量を用いる訳ではない。その他の薬物も徐々に増量して、その案例すべてこの様な方法である。 子宮癌瘤に関して盧氏は次のように述べている:“この病の原因は、多くは月経の期を間違えることに由来する。月経期の間違いの原因は甚だ複雑であり、月経期に六淫の撹乱で病となり、七情六欲の撹乱で病となり、飲食睡眠の不規則に因って病となり、男女の房事過多或は産後の悪露が出尽くしてないために病となり、病因は異なるといえども総じて月経期の間違いか避けることを知らず、防ぐことが面倒で病後に治療もせず、それが長引いて癥瘕痞塊を醸成した。それゆえ内では五臓六腑の相互不調と疼痛で苦しむ;外では筋骨肌肉が影響を受け徐々に焦悴し、更には営衛不和を兼ねて時には悪寒発熱の象がある。治療法は調和気血を以って応じ、その生化を助け陽をして化陰させ陰をして扶陽させ、即ち一切の陰凝を自然に消化する。”本例及び下の2例はみな盧氏が直筆で報告され手紙は本物である。 続く 下記のインタレストマッチ広告は当ブログとは何の関係もございません。
by sinsendou
| 2012-11-02 00:26
| 中医火神派医案新選①~
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